映画『台風家族』主演・草彅剛さん、監督・市井昌秀さんにインタビュー!
2019.09.24
世界一“クズ”な一家だけれど何故か憎めない、愛すべき鈴木家の“台風”のような、めまぐるしい夏の一日を描いた、市井昌秀監督の映画『台風家族』が9月6日(金)から3週間限定で全国公開。主演の草彅剛さん、監督の市井昌秀さんにインタビューしてきました!
今作はオリジナル脚本ということで、アイデアのもとになったものは何ですか?また、それを1本の映画にするにあたって、どう構築していきましたか?
市井監督 30歳の時に、富山の両親の元を離れて東京に行きまして、長男なのに実家に帰っていないことに罪悪感もあり、何か家族の話を書きたいなと思っていたのがきっかけです。小学生くらいの時に、停電になるくらいの大きな台風が夜中に来て、台風が去った後に荒れた町に出て、不謹慎だけどはしゃいだ記憶があるんですね。そのとき、なぜか家族4人の姿がよぎりまして、何か家族の話を書く時は、台風とかけ合わせたものをやりたいなと思っていました。それでまたそのときに、霊柩車が駆け巡る様子が映像的にパッと入ってきたんです。旧式の霊柩車が面白いなとずっと思っていて、なにかヒントがあるんじゃないかと葬儀屋でアルバイトもして、そういうのが重なって、今回の映画が構築されていきました。
主人公が草彅さんに決まってから脚本を少し変えたとお伺いしましたが、本当ですか?
市井監督 そうですね。草彅さんは、昔から生きた芝居をされるというか、いつかご一緒できたらなと思っていました。主役が草彅さんに決まった時、プロットが8割くらいで、シナリオもまだの段階だったんです。草彅さんに決まってから、背中を押されるようにガーっと書きましたね。大きく言うと当て書きですが、草彅さんがこういう役をやったらおもしろいなというものがあったんです。それがずる賢いだけじゃなくて、頭に小さいがつくというか、“小ずる賢い”みたいな。実際は大きな方なのに、あえて小物なことをやると面白いんじゃないかと思って、それは僕自身も投影できたので、そこから今回の脚本がどんどん書けたという感じです。
今回、草彅さんが演じているのが、ずるい部分もあれば、優しい部分もある人間臭い役ですが、役柄の長男という部分も含めて、何か演じる上で、ポイントにしたことはありますか?
草彅さん 脚本を読んで、クズな奴だなとは思ったんですが、僕自身も長男なので、共感できる部分もすごくありました。自分の感情からかけ離れているということはなくて、むしろやりやすかったです。先ほどおっしゃってましたけど、監督は僕のちっちゃいところとかを分かっていて…というか、監督に見透かされているんですよね。そういうことを含めると、僕自身が小鉄という役によく出ていると思います。
それから、この映画は特にそうなんですけど、役っていうのは、実際はそう見えないんだけどハマるんじゃないかなとか、周りの人が考えてくれることに合っていることが多くて。だから監督が、俺のことをそんな大きな人間だと思ってくれてたんだなって感じて。でも、そんな大きな人間じゃないからごめんねみたいな(笑)。でも小鉄を演じるには、小さい人間で良かったな、って思いました。
現場でも監督に引き出してもらいましたね。やっぱり芝居なので、実際に自分と似ている部分があったとしても、芝居として出す、出さないで違ってきますし。僕も僕以外でも、みんなが本人としてちゃんと役に重なって、演じている姿が撮れたんじゃないかな。だから見ていて非常に飽きなくて、面白いものになっていると思います。
『台風家族』というタイトルで、家族だったり、親子だったり、そういう関係が描かれているんですが、草彅さんにとって家族で、思い浮かべる方はどんな方ですか?
草彅さん やっぱり、自分の家族ですね。僕ももういい歳なので、自分の両親に会うたびに、すごく歳とったなって思います。だから、この物語の最後のシーンの叫びは、僕の等身大の心の叫びなんですよね。若い時だったらこの役は出来なかったですし、やっぱり家族や自分に近い人は大事だなと思いました。
草彅さんに、実際に演出をしてみて、具体的にここがすごかったなっていうところはありますか?
市井監督 草彅さんは、共演者の台詞を覚えずに本番に挑むとおっしゃっていて。それって、純粋なキャッチボールをしているはずなんですよね。相手の言葉を新鮮に受けて、自分の台詞を言えば、勝手に感情がのってくる。なので、僕がずっと草彅剛という俳優に抱いていた”生きた芝居をされる方”というのは、ここなんだなと思ったんです。
エピソードとしては、娘のユズキに「自立しなさい」って強く言われるシーンがあるんですけど、虚勢を張ったのではなく、本来はぶっきらぼうでいないといけないんですが、そこで草彅さんが涙を流されたんですね。それがすごく印象的で。NGにしないといけないんですけど、あまりにも良いお芝居だったので、思わずOKと言いそうになってしまいました。
以前、香取慎吾さんに取材をさせていただいたとき、香取さんは本番前のリハで台詞を覚えるくらいで、あまり事前準備をされないタイプだとお聞きしました。草彅さんは、どのようなタイプですか?
草彅さん さっき監督が仰っていましたが、相手の台詞を覚えずに本番に挑むのは、僕が慎吾の真似をしているんですよ(笑)。あいつができるなら、僕もできるだろうみたいな。ステージでも、準備もなしで「やっちゃいなよ」みたいな感じで出ていくタイプだったので、環境のせいというか、慎吾の影響は大きいですね。あいつ、何でできるきんだろう。しかも、前の日からやっている俺より上手くできてんじゃないかと思って、真面目に台詞を覚えてきている俺がだんだん馬鹿らしくなってきちゃって(笑)
それで真似してできてしまうということですよね!
草彅さん できているというか、編集でどうにかできるんじゃないか、というのがあったりもします(笑)。ここ何年かはそういうスタンスですが、それまでは結構台本を読んでいる時期もあったんですよ。でも、現場行くと、どうせ変わるじゃないですか(笑)。あんまり言うと、周りの方が一生懸命やっている中で不謹慎になっちゃうかなとも思うんですけど、その方が一番自由に動けるので。
あと、周りの方はすごい人たちばかりなので、台詞を言っていないと、「俺の番がきたのかな?」みたいな感じでやっています(笑)。そうすると変な間も出てきてしまって、それは計算している間なのか?みたいな、本当はちょっと忘れてるんだけど(笑)。でも日常でもそういう“間”ってあるじゃないですか、だから僕的にも、良いさじ加減なんですよね。忘れているぐらいの方が。素直なタイプなので、全部分かっていると構えちゃうし、目で追っちゃうと思うんですよね、「この人、この人、次俺の番だ!」みたいな(笑)。覚えていかないっていうのも、役作りのひとつかな。
草彅さん演じられている小鉄は、見れば見るほど、クズでゲスだなと思うんですが、実際に演じてみて、この言動は、さすがにクズだなと感じたことはありますか?
草彅さん 面白いなと思ったのが、ここまで兄弟に言われても、こいつなびかないのか!と。通帳をパンツに入れたり、自分の策略が上手くいかないと逆ギレしたり(笑)。監督の脚本があまりにもしつこくて、だんだん面白くなってきて、僕も演じていて笑いそうになっちゃって。ある意味、突き詰めてるなと思ったんですよね。「ブレてないから、逆にこいつかっこいいんじゃないか?」みたいな(笑)。誰しも人にどう思われたらとか、ちょっとでもかっこつけたりするじゃないですか。でも小鉄は、周りの目を気にしていないというか、誰の目にも関係ないみたいなところがあって。そこはやっぱり、監督の演出もあったし、それを僕は演じながらすごく楽しめたし、一つ間違えれば、「小鉄かっこいいな」って思うようになってましたね(笑)
演出を足したり、もっとこうしたら面白くなるんじゃないかとか、監督が実際に現場で、変えていった部分はありますか?
市井監督 ほとんど指示することはなかったんですが、少し変更したところや、足していったところはあります。
草彅さん 監督が、撮りながら思いついたことを言ってくるんだけど、何を言っているのか分からないことが多くて(笑)。
「ここのシーンとここのシーンが繋がるんだ!」とか言ってたけど、全く分からないし、現場がとにかく暑くて。あ、暑いってことを言わないでおこうと思ったんですが、また言っちゃった(笑)。この間の、初お披露目のときに、撮影現場が暑すぎて、暑い暑いって言い過ぎてしまったんですよね。大体現場は暑いか寒いかで、当たり前だから、そんなこと言っても面白くないと思って。だから僕は今日新幹線で、三河安城前で決めたんですよ。名古屋に着いたら、「暑い」って言葉を一切使わないでおこうって。でも、言っちゃいますね。やっぱりそれくらい暑かったからね。
その暑い中、また監督がアツい演出をしてくるんですよ。でも今思えば、あの暑さとアツさが重なった時に、現実と役柄が繋がった感じがして、生きてた。監督の熱心なアツい演出のおかげで、本当に良い作品になったと思います。でも現場は、本当に暑かったです(笑)
ここを見て欲しい、というシーンはありますか?
草彅さん 見てほしいところは、いっぱいあります。例えば、ゾンビの役をやっているところとか。一瞬ですが、監督の奥様と撮影しましたし、あれも屋根裏で暑かったんですよね。あとは、昔の役者シーンでウエイトレスをやっているところ。その日、監督の初日だったみたいですごくこだわっちゃって。そのせいであの一瞬のシーンに、僕は1時間くらい厨房のところで出番を待ってますからね(笑)。あと、本当に見てほしいのは、最後のシーンですね。叫んでいるところが、僕の中のクライマックスだと思っています。
クズのダンスを踊るシーンの動きが面白かったのですが、誰が考えたのでしょうか?
草彅さん 始まる前から、監督が打ち合わせをしようって、ずっと言ってきたんですけど、面倒くさくて、「いいです。家で考えてきます」って言って、実はずっと何にも考えていませんでした(笑)。それで本番がきて、何も考えていなかったので、追いつめられて出たのが、あの踊りです。リアルです(笑)。怒られるんじゃないかと思って、焦ってやっています(笑)。「俺はやればできる子だ!俺の中の振り付け師、出てこい!」みたいな感じでやりました。とにかくやってやれ、って動いたんですけど、結果的には一番良いものになったかなっていう。僕はできる子だから、家で考える必要ないって思っていたので、実際に家では、踊りを考えずにおいしいものを食べていました(笑)
2004年の『僕と彼女と彼女の生きる道』、今年公開の『まく子』などに引き続き、今回も父親役を演じられています。最初に演じられた頃から月日が経っていますが、父親役を演じていて、何か心境の変化はありましたか?
草彅さん そうですね、僕も歳を重ねてきているので、子どもに対して深くなってきたというか。今回のユズキを想う気持ちとか、以前よりも尊い感じがして、何気ないユズキの動きやちょっとしたことが、僕の中により刺さってくるようになりました。そういうのが親なのかなって思うんですよね。きっと親からしてみたら、些細なことがすごく濃かったりするじゃないですか。そういう風に感じるようになった部分に、僕自身の変化があるのかなと思います。
雨のシーンが印象的ですが、あのシーンに、何か思い入れやこだわりはありますか?
草彅さん あのシーンは、一人ひとり出ていくときに、仕草とか、叫んでみようとかゆっくりカメラを回してみようとか、監督が細かく注文しています。あと、スローをかけるところはこだわっていて、その場で足したりしましたね。実はあのシーンは、セルフスローモーションなんですよ(笑)。ゆっくり芝居をまわしてもらって、遠心力のかけ方とか、みんな同じにならないといけないから、監督がカメラを見ながら指示をして、みんなで研究して合わせました。あと、土砂降りですごかったんですけど、昼間暑かったから楽しかったです。雨も気持ち良いというか、まさしく夏というか、思い出に残っています。
市井監督 あのシーンは、夜遅くに撮りましたね。あと、カースタントの方の気合が入りすぎちゃって、リハーサルで車が横転したんです。でもそんな時に限って、カメラを回していなくて。あれが撮れていたら、横転設定に変えてたかもしれない。とりあえず、ああいうときはカメラを回しておこうと勉強になりました(笑)。
公開が少し遅れてしまったことに対しての、思いを聞かせてください。
草彅さん 本当はもう少し早く公開する予定でした。僕ももちろん気になっていたし、一番気になっていたのは、監督だと思います。本当にこの作品を応援してくださる方がたくさんいて、みんなが声をあげてくれたおかげで公開できるので、すごく皆さんに感謝しています。普通に公開することが当たり前だと思っていたので、色んなケースがあるんだなと思いました。去年の夏、暑い時にみんなで頑張って作った作品がお蔵入りになっちゃうのが、一番本当に悲しいので、今回こうやって三週間だけですけど、公開できることになったのは、正直うれしいです。
市井監督 今回こういう風に公開することが出来たのは、応援してくださるみなさんのおかげだと思っているので、感謝しています。スタッフやキャスト、映画製作に携わった人たち、エキストラの方々など、直接映画作りに関わる人たちばかりを見ていたけれど、映画って公開されるまでに、応援してくださる方々があってこそだな、ということを身にしみて感じました。一人で作っているわけではないので、より一層考えさせられる時間でした。その上、オリジナル作品でみんな僕の書いた脚本を元に、スタッフやキャストが1つのことに向かって頑張ってくれたので、やっぱり僕が嬉しいと素直に言わないと、それをスタッフにも返せない。だから、今日ここに来ていることも、31日のお披露目も6日の公開も、100点の上で僕は嬉しくありたいと思っています。
映画『台風家族』
TOHOシネマズ名古屋ベイシティ、ミッドランドスクエアシネマほか全国絶賛ロードショー中[PG-12]
出演/草彅剛、MEGUMI、中村倫也、尾野真千子
若葉竜也/甲田まひる、長内映里香、相島一之、斉藤暁/榊原るみ・藤竜也
監督・脚本/市井昌秀
配給/キノフィルムズ
©2019「台風家族」フィルムパートナーズ
http://taifu-kazoku.com/